新型コロナウイルス抗体検査

昨年末より新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が始まり、現在感染者数は世界全体で690万人以上、死亡者数は40万人以上となっています。日本では(6月7日現在)感染者は17,141人、死亡者は916人(クルーズ船を含まない)に達しており、5月25日に緊急事態宣言は全面解除されたものの、感染拡大の脅威はおさまっていない状況です。

抗体検査とは

治療薬やワクチン開発が期待されますが、今までに感染したかどうかが分かる『抗体検査』が注目されています。PCR検査が現在の感染状況を調べるのに対し、抗体検査は過去の感染歴を調べられるものです。一般的に人口の6~7割が免疫を持てば感染は収束に向かうとされています。抗体検査を拡充することで、どこまで流行が広がっているのかを把握できたり、海外では抗体がある人に社会活動を認める動きもあります。ただ検査の精度や抗体の仕組みなど分からないことも多く、まだ課題があります。

市中には様々な簡易検査キットが出回り、中には悪意ある業者による詐欺的な抗体検査キットがあるとして、米国の食品医薬品局(FDA)は性能が保証された抗体検査だけを使うように通達しました。現在日本で承認された抗体検査はありませんが、2020年5月7日までに、12品目の抗体検査がFDAから緊急使用許可(EUA)を取っており、そのうち、スイスのロシュ社等数社の抗体検査が日本でも研究試薬として販売されることになり、6月3日より検査会社を通して専用の装置でロシュ社の抗体検査が行えるようになったことを受け、当クリニックでも導入することに致しました。

 

抗体の種類

抗体にはIgG, IgA, IgM, IgE, IgDの5タイプがあり、抗体検査では、ウイルスや細菌の感染初期に増えてきて、回復後に減っていくIgMと、若干遅れて増えてきて、比較的長期にわたって免疫に記憶されるIgGを調べることが一般的です。ただこういった傾向はウイルスや細菌の種類によって様々なため、新型コロナウイルスに対しては十分な研究成果がなく、専門家の中でも意見が分かれており世界各国で研究を進めているところです。当クリニックで行う検査では抗体の種類は問わず全ての抗体の有無を判定するものとなっています。

 

感度と特異度

感染している人にその検査を実施したら、どれだけの割合が陽性と判定されるかを感度といいます。また、感染していない人にその検査をしたら、どれだけの割合が陰性と判定されるかを特異度といいます。感度や特異度が100%の検査があれば理想的ですが、実際には難しく、現在広く行われているPCR検査にいたっても、感度は30~70%、特異度は99%以上とされています。『一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の『新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療所・病院のプライマリ・ケア 初期診療の手引き Version 2.1(2020年4月30日公開、5月26日改訂)』

スイス・ロシュ社の抗体検査薬は感度100%、特異度99.8%と発表されていますが、信用できる抗体検査を行ったとしても注意しなくてはいけないことがあるのです。

 

 

中和抗体とは

 抗体検査で陽性となり、過去に新型コロナウイルスに感染したことがあると分かっても、再感染はないからと安心してよいわけではありません。ウイルスの毒性や感染力を弱めたり消失させることのできる抗体を中和抗体といいますが、現在のところ、新型コロナウイルスに一度感染し、回復した患者で産生される抗体が中和抗体かどうかは不明のため、世界保健機関(WHO)は4月下旬、抗体を持つ人が再感染から守られているという証拠はまだないと警鐘を鳴らしました。

 

抗体検査を行うことで過去の感染の可能性を知ることはできますが、結果がどうであっても、密閉空間・密集場所・密接場面の3密を回避し、咳エチケットを守る等の感染対策は引き続き必要なことなのです。

監修:
菰池 信彦

専門分野:
内科・消化器内科・肝臓内科・便秘外来・内視鏡検査


資格:
医学博士(東京慈恵会医科大学)
日本内科学会 認定医
日本消化器病学会 専門医
日本消化管学会 指導医
日本肝臓学会 専門医
日本ヘリコバクターピロリ学会 感染症認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本カプセル内視鏡学会 認定医
日本医師会認定産業医
日本医師会認定健康スポーツ医
厚生労働省緩和ケア研修修了